昔、をとこ有けり。宮づかへいそがしく、心もまめならざりけるほどのいへとうじ、まめにおもはむといふ人につきて、人のくにへいにけり。このおとこ、宇佐のつかひにていきけるに、あるくにのしぞうの官人のめにてなむあるときゝて、女あるじにかはらけとらせよ、さらずはのまじ、といひければ、かはらけとりていだしたりけるに、さかなゝりけるたちばなをとりて、
さ月まつ花たちばなのかをかげば昔の人の袖のかぞする
といひけるにぞ思ひいでゝ、あまになりて、山にいりてぞありける。
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