昔、女はらからふたりありけり。ひとりはいやしきおとこのまづしき、ひとりはあてなるおとこもたりけり。いやしきおとこもたる、しはすのつごもりに、うへのきぬをあらひてゝづからはりけり。心ざしはいたしけれど、さるいやしきわざもならはざりければ、うへのきぬのかたをはりやりてけり。せむかたもなくて、たゞなきになきけり。これをかのあてなるおとこきゝて、いと心ぐるしかりければ、いときよらなるろうさうのうへのきぬを、見いでゝやるとて、
むらさきのいろこき時はめもはるにのなるくさ木ぞわかれざりける
むさしのゝ心なるべし。
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